郡山全集

工房あせりな 西森三洋さん

2014/06/02

aserina

郡山全集|生まれでるもの

074 工房あせりな 西森三洋さん

三春、工房あせりな

手漉きの和紙を作っている職人さんに会いに行った。
「工房あせりな」は、三春町の山あいにある。
訪れたのはあたたかな春の日、野山は芽吹いたばかりのやわらかな緑におおわれ遅咲きの桜がどれも満開だった。
あちこちに花を撮っている人がいた。その風景は一編の映像を言葉もなく眺めるように美しい。
西森三洋さんは3年前、この地に和紙を漉くためにやってきた。
古民家を修復しながら、巡る季節に励まされ後押しされ、日々、和紙作りに取り組む。

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「一時、プロのミュージシャンになりたいと思ったこともあります」
若い頃にギターのうまい人とバンドを組みボーカルを担当、アメリカの古いブルースなどを歌っていました。
大阪弁で頑固なことを「へんこ」と言うそうです。
西森さんは自分をへんこだと言います。
その思いが唯一無二の和紙作りに繋がります。
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紙漉きには、そのままのその時の自分が出る

「西森さんは大阪出身。工房あせりなは、大阪弁の「あわてなさんな」「あせりなさんな」という意味合いから名付けた。
西森さんが、手漉きの和紙に出会ったのは30歳の時、溶接工の仕事をしていた頃だった。
「溶接工をやっていたのは、生活のため。10年ほど続けていましたが、鉄がどうしても好きになれず自然素材のものを探していました。富山にある工房が伝統工芸の求人雑誌に出ていて応募しました」
初めは断られたがとりあえず一年間、春夏秋冬一時ずつ通うようになる。強い手応えがあった。それからずっと紙漉きに専念する。その後、新潟の工房へ移り変わり、西森さんは独立を考えるようになった。
「手応えを感じた時の気持ちをどう表現したらいいのだろう。そのまま素直にその時の自分が出る。初めて漉いた紙はヘタクソと書かれているように見えました」
同じ材料で同じ機械で漉いても、隣の人とは全く違うものが出来上がることに驚き思い知る。
これくらいでいいかと思って漉くとこれくらいの紙に、いい紙を作るぞと意気込むとわけのわからない紙になる。出来上がった紙にはものの見事にその時の自分が映し出されると西森さんは言う。

やりたいとやれるは違う
好きにならなければできないこと

例えば冬の日、朝から雪模様。こんな日は紙の原料になる楮(コウゾ)の雪晒し。楮の白皮を雪の中に晒し、太陽が照るの待つ。冷たい空気の中で白が増していく。天然の白は漂白剤で白くするものと全く違いとても美しい。
例えば「かずだし」作業。煮上がった楮をアク抜きした後、ゴミや硬い部分をひたすら手で取っていく。日も暮れだすと身体も冷えてくるが、きれいにした後の紙漉きは格別な仕上がりになる。
例えば煮上がった紙の原料をひたすらたたいて繊維を細かくする。昔ながらの江戸時代と同じやり方をずっと守りつづける。
例えば漉き上げた紙を一枚一枚はがして板に貼り乾かす。昔ながらのこの方法は圧倒的にいいものができる。
和紙を漉くまでの作業。漉いた後の作業。「ひたすら」の丁寧な手作業がものをいう、それが手漉き和紙の世界だ。
やりたいと言って訪ねてくる若者もいる。けれどやりたいとやれるは違うこと。好きにならなければできないことなのだ。

和紙のことを多くの人に知ってもらいたい

西森さんは、2011年3月の末に三春へ移り住みました。
当初は、震災のあった3月11日頃に来る予定でした。
「原発事故直後は正直、悩みました。でも戻ることは出来ない。決まっていたことなので、行くしかないやるしかないと思いました」
三春は大丈夫。日々発信される情報を信じて自分をふるいたてます。
まずは古民家と家の回りの改修工事に明け暮れる毎日。
畳は腐っていて戸は使えない。住める状態ではない家屋を配管工事以外は一人で改修しました。
「この時は、溶接工をやっていて良かったと思いました。身体を酷使する仕事はさんざんやってきましたからね。寒いとか天井裏に入ることも苦じゃありません」
若い頃に全国の工事現場を飛び回り、親方に鍛えられ育てられたことが今に生かされているという西森さんです。
紙漉きに必要な何台かの機械も自分で設計し、業者さんと試行錯誤を繰り返し完成させます。やっと紙を漉けるようになったのは一年半ほど経ってからでした。
「やり始めたら、一気に作り上げていきます。僕は草木染めもするので、山を歩いてその季節だけにしかない葉を見つけると追い立てられるような気持ちになります」
和紙の問い合わせは作家さんが主流ですが、西森さんはもっと多くの人に知ってもらいたいと話します。
楮100%の和紙は見た目も美しくとても丈夫。なんと40年から100年近くはもつのだそうです。年月が経てば柔らかくなり、断熱効果もあり障子戸には最適です。

西森さんの手漉きの和紙で貼った障子を見せていただきました。
中央には草木染めの和紙がほどこされ回りの和紙の白さが引き立ち、外からの光りを受けてとてもきれいです。

工房あせりな

  • 〒963-7781 福島県田村郡三春町北成田字手倉134
  • 0247-73-8805

2014.04.22取材 文:kame 撮影:watanabe

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